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いち東大生の書評ブログ

最近やっと熱心に本を読むようになった、とある文系東大生による気楽な書評ブログです。

深い思考に至るには?―『思考の整理学』

思考の整理学 (ちくま文庫)

思考の整理学 (ちくま文庫)

今回紹介するのは、外山滋比古『思考の整理学』筑摩書房(1986年)です。
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帯に「100万部突破」「東大・京大で1番読まれた本」とかなり景気のいいキャッチコピーが躍ります。結構古い本ですが、長い間読まれ続けているようですね。


「ものごとを整理して考えるにはどうすればいいか」ということについて、その心構えから方法論までを、エッセイ調に書き連ねた一冊です。
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「グライダーと飛行機は遠くからみると、似ている。空を飛ぶのも同じで、グライダーが音もなく優雅に滑空しているさまは、飛行機よりもむしろ美しいくらいだ。ただ、悲しいかな、自力で飛ぶことができない。」


「学校はグライダー人間の訓練所である。飛行機人間はつくらない。」


この面白い比喩が、筆者の問題意識の中心を占めています。つまり、学校教育において、自ら思考することではなく、言われたことをそのまま受け入れる従順さがむしろ高く評価された結果、とりわけ大学において知的営為に耐えられない学生が増えていることを嘆いているわけです。
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筆者は、そのような現状を念頭におき、自ら思考するための「理念・心構え」や「習慣(それも筆者自身の)」を中心に論を進めていきます。いくつか例を紹介しましょう。


・朝食の前に考える
夜に考えても解決しないことについて、筆者はひとまずそのままにしておいて朝、それも朝食前に考えることを提案します。そうすればすっきりと考えることができるというわけです。

これ自体はとりわけ変わった習慣というわけではないですが、驚くのは、この文字通り「朝飯前」の思考を、筆者は1日2回行っているということです。

8時に起きて、1回目の「朝飯前」の時間を過ごし、昼頃に朝昼兼用の食事を取り、その後昼寝をする。起きたときはその日2回目の"朝"。昼下がりから夕方までを思考の時間に充て、その後"朝食"と夕食を兼ねた食事を取る。

このような習慣を筆者は長く続けているということです。誰にでも真似できることではありませんが、1日2回フレッシュな思考時間があるのは、とても効果的に感じられます。


・考えをノートなどにまとめる
これはいろいろな本で勧められていることです。書くという行為をしている時に思考がまとまるだけでなく、あとで見返せる形で思考を保持することができます。

考えは、後から「醗酵して」自分の中で上手く扱えるようになる時もあると筆者は言います。考えを寝かせるということですね。頭の中で覚えていたことが醗酵することもありますが、書き留めておくと見返した時にふと醗酵が進むこともあるかもしれません。

筆者によると、思いついた時にすぐに書き留めることが大切だとのこと。ちょっとでも時間が経つと、忘れてしまったり変化してしまったりするからです。

・「忘れる」ことも大切
「自然のうちに、直観的に、あとあと必要そうなものと、不要らしいものを区分けして、新陳代謝をしている。 頭をよく働かせるには、この"忘れる"ことが、極めて大切である。」

知識を増やすのは重要ですが、それだけならばコンピュータでも出来る。「創造的人間」になるために、忘れることは大きな意味を持っていると筆者は主張します。

そのためには、長い時間ずっと同じことを考えるのではなく、他のことをしたり寝たりして思考を一新することが効果的だといいます。

忘れたり、新たに覚えたりする中で、深い思考が醸成されていくということでしょうか。
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当たり前といえば当たり前のことばかりなのですが、実際にやるとなるとどうしても億劫になってしまいそうです。そもそも、本当の意味で「考える」ことは実はかなり高度な行為ではないでしょうか。


全部完璧にしようとすると、挫折してしまうというのが世の常。「でも、頑張ってみたい!」という気持ちを大切にしつつ、本に書いてあることを気負うことなく自分なりに実践するのが、一番気持ちが楽で、効果も高いでしょう。
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ともあれ、仕事や学業などで日常的に相手にものごとを伝える(書くのであれ話すのであれ)機会がある人は、「なるほど」と感じ、実践してみたくなるような知恵が満載です。そうでない方にとっても、「ものごとを整理して考える」とはどういったことかを知るのは、生活を知的な方面で豊かにすることに役立つと思います。


各章毎の内容の独立性が強く、全体の流れのようなものは特にないので、暇なときに少しずつといった読み方もおすすめです。それほど長くないので、もちろん一気読みでも。