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いち東大生の書評ブログ

最近やっと熱心に本を読むようになった、とある文系東大生による気楽な書評ブログです。

学問研究の一端を覗き見―『知の技法』

知の技法: 東京大学教養学部「基礎演習」テキスト

知の技法: 東京大学教養学部「基礎演習」テキスト

今回紹介するのは、小林康夫/船曳健夫『知の技法』東京大学出版会(1994年)です。
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本書は、東京大学教養学部の文系の1年生を対象にした「基礎演習」という必修科目のサブテキストとして編集されたものです。


「基礎演習」はゼミ形式で文献を読んだりレポートを書いたりしながら、学術研究の手法について学ぶ授業。現在では「初年次ゼミナール」へと名称が変わり、より教員の専門性を活かした授業がなされています(ということだそうですが、私は「初年次ゼミナール」しかしか受けたことがないので比較が出来ません)。


大学テキストとしては異例の46万部を売り上げたベストセラー。知的活動に対する人々の興味関心の高まりを反映しているのか、私のようにミーハー的な気持ちで手に取った人が多かったのか(私が言うのも何ですが、やっぱり「東大生はどんな勉強をしているのか」って気になりますもんね)は定かではありませんが、どちらにせよこういった「お堅い本」に注目が集まることは悪いことではないと思います。
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本書は三部構成になっています。
まず第一部は「学問とは何たるか」という、ありがたい感じ(言葉にトゲがある?)の内容です。


「学問とは、一定の対象に関する普遍的な記述を与えることだと言ってもいいでしょう。(中略)原理的には誰にも分かるような仕方で説明し、論証することができるのでなければなりません」。


いきなりそういうことを言われると面食らってしまいますが、これは学問をする上での最も重要な約束なのです。それはつまり、学問に取り組む大学生の約束ということでもありますね。本書は続けます。


「大学においては、これこれの個別的な知識を学ぶよりは、普遍性の方へとみずからの言語を開いていく仕方や作法を身につけることのほうが、はるかに肝要なのです。」


これが大学の「理念」です。実際にできるかどうかは別として、大切なことだというのは伝わってきます。


この辺りは大学で口酸っぱく言われたり、自分で何度も考えたりするところです。大学生であるからには「学問的な思考方法」に慣れよ、ということでしょうか。
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第二部は、気鋭の研究者達の研究内容の一端を垣間見ながら、第一部で述べられた理念をより具体的に実感するというパートです。読み物としてはここが一番面白いと思います。

とりあえず見出しをいくつか並べてみましょう。
・フィールドワーク―ここから世界を読み始める
・史料―日本的反逆と正当化の論理
・翻訳―作品の声を聞く
・統計―数字を通して「不況」を読む
・モデル―ジャンケンを通して見る意思決定の戦略


学術研究なので読みこなすのは結構大変ですが、いろいろな研究成果のつまみ食いが出来て、お得感があります。また、やや古い本であるにも関わらず、その成果は今でも色褪せていません。


私が個人的に一番面白いと思ったのは「アクチュアリティ―「難民」報道の落し穴」という見出しの研究です。


これはかつて日本に押し寄せた「ベトナム難民」について、その捉え方の難しさを、新聞報道の観点から考察したもの。実はそのような問題があったこと自体私は知らなかったのですが、当時何が起こり、どのような決断が下されたのか、そしてそれをどう捉えるべきかということについてよく理解することが出来ました。


変わったところでは、マドンナの写真集に隠されている様々なレトリック(比喩)を考察する、なんて研究成果もあります。
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第三部には、実際に学問をするに当たっての技術、例えば論文の書き方や発表の仕方といったことが具体的に説明されています。学問の成果を「表現する」ことに重きが置かれたパートです。


これもやはり円滑に研究を進めるためには欠かせないことです。頭の中できちんと考えられていたとしても、それを上手く表現できなければ成果として認めることは出来ません。


かつて、この本の刊行に際して「東大生でもわざわざこんな本を作ってこんな基本的なことを教えないといけないのか」といった批判があったそうです。恐らくこの第三部が彼らの気に入らなかったのでしょうが、「基本的」だからといって教える価値がないということにはなりませんし、むしろ積極的に教えるべきだと思います。


「出来てて当然」という思い込みにメスを入れ、本当に教えるべきことを教えることから逃げなかったという点で、この本は評価されるべきです。
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本書の内容は、私も大学生として何度も考えていることなのですが、それでもやはり新たな発見がありました。


学問研究の一端を見てみたいという純粋な気持ちに答えてくれる本書。大学生の方も、そうでない方も、読んでみると何か感じることがあるのではないかと思います。