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いち東大生の書評ブログ

最近やっと熱心に本を読むようになった、とある文系東大生による気楽な書評ブログです。

データを見ればそこに答えはある!―『デフレの正体―経済は「人口の波」で動く』

デフレの正体  経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)

デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)

今回紹介するのは、藻谷浩介『デフレの正体―経済は「人口の波」で動く』角川書店(2010年)です。
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印象論で片付けられがちなデフレ経済を正面から考察した、あまり類を見ない作品。


一度筆者の講演を聞いたことがあるのですが、当然のことを言っているだけなのにとても刺激的に感じられるような話をする方でした。


地域振興にも造形が深く、著書『里山資本主義―日本経済は「安心の原理」で動く』がよく知られています。気になる方は、以下のリンクよりどうぞ。

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冒頭に示されているこの本の基本姿勢は「印象論を排し、客観的なデータ(事実)だけに基づいて経済を分析する」ということです。当たり前のことのように感じますが、これが出来ていない人が、マスコミや学者などにも多いと筆者は言います。


そして、この視点から、「デフレの正体」は一般的に言われているように「景気の波」によるものではなく、「人口の波」によるものだった、と主張するのです。


「景気の波」とは、GDPや円高円安、失業率といった経済を大枠で捉えた時の上下のことで、経済を全体的に捉えることが出来て単純なので、それをもとに経済を語りがちです。もちろん筆者はそれらの指標自体の価値を疑うわけではありまんが、そのような議論の進め方は「木を見て森を見ず」、つまり細部を等閑視する表面的なものに過ぎません。


前半はこのような経済の捉え方を問題視し、諸々のデータに基づいて一般的に抱かれている誤ったイメージを覆していきます。
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では、本当に経済を動かしているのは何なのか。ここに至って筆者は「人口の波」がデフレ経済の原因だという持論(といってもデータからそう言えるだけで、ユニークな考えというわけではないのですが)を展開します。


ここでいう「人口の波」とは端的に言えば「現役世代の減少」と「高齢者の激増」のこと。


一般的には「地方では高齢化が進んでいて、経済が沈滞している」などと考えられていますが、これも印象論で、実際には地方だけでなく首都圏を含む全国にその傾向があるということが、データから明らかになるのです。


ここが本書のミソと言えるでしょう。これがどのようにデフレ経済へとつながるのかは、実際に読んで納得して頂きたいところです。
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以上の議論を踏まえた上で、最後には「ではどうすればいいのか」ということについて3つの提案がなされます。


「高齢富裕層から若者へ所得を移転する」
「女性の就労と経営参加を当たり前にする」
「労働者でなく外国人観光客・短期定住客の受入をする」


これらには一部の人には反発を抱かれそうな内容も含まれていますが、読んでみるとやはりこれも確かな客観的事実のもとに導かれた当然の帰結とも言える提案です。


また、実現不可能なことを無責任に言うものでもなく、それぞれ無理なく達成できるということを筆者は具体的に示しています。


こういう主張に対しては「そんな夢物語、実現するはずがない」「そんなことして逆に状況が悪くなったらどうする」と風当たりが強くなりがちですが、先入観なしに読めば、原理的には不可能ではないし、実際に効果が期待できるということを実感できると思います。


もちろん机上論ではあるので、現実で完全にうまくいくと言う保証はないのですが、それを突っ込んでも何も始まりませんし、むしろ生産的な提案と捉えるべきです。
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本書は、主張していることは実は当然のことなのですが、先入観にとらわれてそう考えている人が少ないために、逆に独自性を帯びた主張になっている感があります。


何かと独自性やオリジナリティと呼ばれるようなものを求められる機会が多いこの頃、偽りのユニークさよりも当然のことを当然のこととして主張する勇気を持ちたい、という気分になるような一冊です。